縁がわでビール

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ギリギリの場面で人間はどう行動するのかという問い。塚本晋也監督の『野火』が強烈。

昨年観た塚本晋也監督の映画「野火」。忘れないように感想を書いておいていたのだけれど、備忘録としてこちらにも残しておきたいと思う。
 

この映画、強烈で凄まじかった。 血の匂い、火薬の匂い、ジャングルの湿度、強烈な飢餓、混沌とする意識と狂気、一瞬で目の覚める爆発音、みえない敵から攻撃されるという不安感。リアリズムが半端ない。

家でみてもそれなりのインパクトはあると思うのだけれど、映画館という与えられた箱の中だから得られる没入感があった。映画館だからこそ得られる映像体験。原作の没入感もかなりすごくて、寝る前に読むと夢に見てしまうくらいのインパクトなのだが、視覚と聴覚が入るとまた別次元になる。すごい体験だった。

 

原作は大岡昇平の同名作品。戦場での飢餓から人間が追い詰められていくさまを描かれる。以下、wikipediaからのあらすじ引用

太平洋戦争末期の日本の劣勢が固まりつつある中でのフィリピン戦線が舞台である。 主人公田村は肺病のために部隊を追われ、野戦病院からは食糧不足のために入院を拒否される。現地のフィリピン人は既に日本軍を抗戦相手と見なす。この状況下、米軍の砲撃によって陣地は崩壊し、全ての他者から排せられた田村は熱帯の山野へと飢えの迷走を始める。 律しがたい生への執着と絶対的な孤独の中で、田村にはかつて棄てた神への関心が再び芽生える。しかし彼の目の当たりにする、自己の孤独、殺人、人肉食への欲求、そして同胞を狩って生き延びようとするかつての戦友達という現実は、ことごとく彼の望みを絶ち切る。 ついに「この世は神の怒りの跡にすぎない」と断じることに追い込まれた田村は「狂人」と化していく。

 

戦争という題材だけに反戦ものにとらえられがちだけど、戦争はあくまで舞台装置にすぎない。この作品がほんとうに描いているのは戦争の話ではなく追い詰められた人間の姿だ。生きることは飢餓であり食べる喜びであり狂気であり空の青さであり海の美しさであるということ。ギリギリの場面に直面して、人間は、あなたはどう行動するかという問い。

人は自分の好きなようにしか物事を理解できないけれど、本も映画もイデオロギーのフィルタを通すと作品の本質を見失ってしまうように思う。これは単なる反戦映画ではなくて、超絶骨太な観念的な映画だと感じた。

万人受けはしないし、観る人を選ぶ映画ではあると思う。しかし身に迫る映画を久しぶりに見た。強烈。